観光資源を活用して地元を活性化
特定非営利活動法人 宇陀の街づくり研究会

活動地
宇陀市「かぎろひの里 椿寿荘(ちんじゅそう)」
概要
良質なサービスと手頃な料金で誰でも宿泊や休憩できる「椿寿荘」を大宇陀の観光拠点として地域の活性化を目指す
取材日
2010年8月24日
椿寿荘の場所(Google マップ‐地形図)
椿寿荘の場所(Google マップ‐地形図)

長谷寺の南約8Km、標高約400mの大和高原に椿寿荘があります。廃止予定であった県営老人休養ホーム「椿寿荘宇陀寮」を、高齢者から子供まで、「憩いの場」としてだれでも手頃な料金で、宿泊や休憩できる「かぎろひの里 椿寿荘(ちんじゅそう)」として再生させ、大宇陀の観光拠点として活用するなど、様々な仕掛けで大宇陀の元気づくりを目指しておられる、NPO法人宇陀の街づくり研究会の嶋田行雄理事長にお話を伺いました。

思いは「人・金・物」が巡る活動づくり

戦後20年を経た高度成長の時期、当時流行だった「レクレーション」の需要に合わせ、県営施設として昭和46年に開設された椿寿荘宇陀寮です。その後の民営施設の充実、交通網の発達とともに次第に利用者が減ったこと、老朽化を理由に平成21年3月で施設を廃止とすることが決められていました。

寝耳に水状態でそれを知った地元の人々が、「この施設を利用したい」との声を上げた結果、県は土地を除く施設の無償譲渡公募を行いまた。地元のNPO法人宇陀の街づくり研究会を含む県内からの応募4団体の中から、公募審査委員会は、地域の活力を高めると判断しNPO法人宇陀の街づくり研究会に譲渡を決めました。こうして、当法人の経営のもとに平成21年4月から新たな椿寿荘として再出発することになりました。

春の本郷溜池から眺める椿寿荘
春の本郷溜池から眺める椿寿荘

山間部の高齢、過疎化は多くの市町村に共通する課題で、宇陀市も例外ではありません。大和高原とよばれる高原地帯に位置して、山林が全体の72%を占め、宅地は4%弱で、例えば大宇陀区(旧大宇陀町)も、かつて2万人と言われた人口は今や約8千人未満です。嶋田さんは旧大宇陀町生まれ、長年の東京生活を終え2003年に帰郷しました。「よそ者・馬鹿者・若者」が地域を変えると言われますが、行動派の嶋田さんはまさにその人でした。

NPO法人宇陀の街づくり研究会の「椿寿荘宇陀寮活用」応募提案は、単なる宿泊保養機能だけはありません。街づくりステーションとしての機能を付加し、宇陀のコミュニティーの場として市民の手で宇陀の魅力を発掘する。地域の産業や生産者との交流によって、宇陀や吉野地域の良さを知っていただく宿泊拠点づくりを目指し、地域の活性化を図る。そのための様々なイベントで県内外から広く誘客する。季節催事イベントとして、宇陀・吉野桜祭りツアー。体験イベントとして、米作り、酒造り。文化イベントとして、既存の椿寿荘主催のグランドゴルフ大会を継承する。このような地域の観光経済活性化のプランでした。

活動内容

地域の観光経済活性化の鍵として、地域の「お宝」発掘、新たな魅力の創出、メディアの活用(広報)、インターネットの活用等に加え人材が必要な要素とされていますが、これを着実に実行されています。

 お宝発掘と磨くこと

旧大宇陀町(宇陀市大宇陀区)は大和と伊勢を結ぶ伊勢本街道上に位置し、伊勢の海の幸、吉野の山の幸の中継点として、町を栄えさせてきたところであり、織田信長の次男織田信雄(のぶかつ)が城下町として治め、何代かのちは江戸幕府の天領地として栄えた町です。遡れば、飛鳥時代には天皇家の御狩場として「阿騎野が原」と呼ばれていました。飛鳥から山越えでこの地に狩に来て、一夜を過ごして戻るときに「かぎろひ」という自然現象に出くわし、同行した柿本人麻呂が「ひんがしの野に・・・」と詠みました。

森野吉野葛本舗と森野旧薬園 左端が法人発祥の小屋(嶋田さんの手造)
森野吉野葛本舗と森野旧薬園 左端が法人発祥の小屋(嶋田さんの手造)

嶋田さんは、松山街道・又兵衛桜・かぎろひの丘万葉公園・阿紀神社・大願寺・大宇陀温泉・城山などの他、霧氷で有名な高見山や鳥見山、音羽山等への登山の拠点でもあることなど、地域の特長と魅力を熱く語られました。その後、ご自身の農作業の現地と隣接する法人の発祥の小屋、松山地区の街並みや、旧家を改修した松山地区まちづくりセンター「千軒舎」を拠点としたまちづくりを進められている様子をご案内くださり、人々の地域を思う熱意を肌に感じることができました。

同時に無策とも思える工事や、施設の非効率な活用状況などの現場を紹介され、住民視点を採り入れたグランドデザインの必要性を話されましたが、これは宇陀市地域協議の委員として参画されている「見る目」が気付かせています。

 広報とインターネット無しには

広報の大切なことは理解出来ても、団体の多くは活動資金が潤沢ではありませんので、「広報をどうするか?」ということで躓いてしまいます。特定非営利法人宇陀の街づくり研究会は、興味を抱いてもらえそうな内容のニュースリリースを毎月、新聞社、ミニコミ紙へFAXやメールで行い、メディアとの相互協力関係ができていますし、本郷溜池の渕で飼育しているヤギの名前を懸賞付きで募集したりして椿寿荘の認知度を高めています。楽天トラベル等インターネット旅行会社の仕組みを積極的に利用した集客で、楽天トラベルのクチコミや、「お客さまの声」では8月25日現在総合評価が4.14点(満点は5点)と、奈良県内宿泊施設で高得点になっています。これは、地域の宝、料理、サービスなどの徹底した情報提供に努めている結果であり、メディアとインターネットの仕組みの活用が大変効果的です。

 魅力は創り育てるもの

嶋田さんの自宅で個人的に始めたクリスマスイルミネーションが高じ、当時の大宇陀町からの要請を受け、「心の森総合福祉公園」で「心の森イルミネーション」を2004年から2006年にかけて仲間達や、延べ550人以上のボランティアの助けを得て行いました。この「人のつながり」が、椿寿荘の再出発を地域事業創出型NPO活動として始める力となりました。心の森イルミネーションには毎年一万数千人の来場客数があったそうです。そこに至るまでには、大量の材料を海外にまで買い付けに行ったという道楽ごとのような話も含め、畑の端の小屋に茶飲み友達が集い発展していったものと思われます。

イルミネーション準備 心の森イルミネーション 蕎麦づくり
イルミネーション準備 心の森イルミネーション 蕎麦づくり

自然が相手の収穫量ですが蕎麦づくりは、やがて椿寿荘でのソバ打ちイベントの材料になる予定です。

なら結婚応援団 椿寿荘のオープンデッキからの展望
なら結婚応援団 椿寿荘のオープンデッキからの展望

奈良県では、少子化対策の一環として「なら結婚応援団なら出会いセンター」(奈良県婦人会館内)が開設され、結婚を希望する独身男女の出会いの場となるイベント情報を提供しています。応援団員「かぎろいの里 椿寿荘」として、椿寿荘の環境を使ってパーティーや宿泊の場及び演出サービスを提供し、カップルの誕生に一役買っています。

「椿寿荘」の運営だけにとどまらず、10月3日に、大宇陀の観光ポイントを巡る全長5kmのノルディーウォーキングを企画しており、その為に従業員がトレーナ資格を取得しています。また、心の森総合福祉公園に開設される天然芝を使用したグランドゴルフ場を活用し、宇陀をグランドゴルフのメッカにしようといろんなイベントを企画中です。

取材を終えて

嶋田さんは、2×4(ツーバイフォー)工法を用いて畑の中に自分で小屋を建てるなど、様々なアイデアと実行力を持って、地域の活性化に心血を注いでおられます。嶋田理事長が引用した『人は城、人は石垣、人は堀、・・』(武田信玄)で、信玄が「人」の存在を何より重宝し、それを最大の戦力として用いたように、多角化する企画運営を支えるさらなる人材の育成が望まれます。

松山地区は、町家を始め、社寺建築、土蔵、石碑、門など、伝統的景観を構成する様々な建造物があり、地場産業として、吉野葛(発祥の地とのこと)、醤油の製造、造り酒屋、等が昔の姿のままで見せています。この景観を保存しながら、「椿寿荘」の運営を中核に、地域内外の人の協力を得て、地元の人が地元で生活ができる、大宇陀地域全体の活性化を今後とも図ってもらいたいと感じました。

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